学校ACEが与える深刻な影響

学校が子どもを傷つけていることが、引きこもり問題に影響を与えている可能性がある

目次

  1. 背景
  2. 私たちの課題意識
  3. 研究の方法
  4. 結果と考察

1.背景

ACEとは、Adverse Childhood Experiences、小児期逆境的体験を言います。ACEが成人期に与える影響について、1990年代後半からアメリカで研究がはじまり、ACEが成人期の身体疾患や社会適応などに深刻な影響を与えることが明らかになりました。ACE研究は、今もなお、世界に衝撃を与え続け、例えばACE研究に関するニュースサイトであるACESTooHigh(https://acestoohigh.com/)では、ACE研究における重要な発見として、以下の6つを挙げるに至っています。

  1. ACEは、よくあること。アメリカ人の3分の2に少なくとも1つのACEがある。
  2. ACEは、慢性的な疾患、がん、心臓病、メンタルヘルスの悪化、暴力を引き起こす。
  3. ACEは1つだけを持つことは難しく、普通、複数を持っている。
  4. ACE が多ければ多いほど、慢性疾患、精神疾患、暴力、暴力の犠牲者になるリスクが高くなる。例えば、ACEが4つの人は、ACEがない人に比べて、喫煙者である可能性が2倍に、アルコール依存症である可能性が7倍に、自殺未遂のリスクが 13倍に増加する。6つ以上の人は、寿命が20年短くなるリスクがある。
  5. 子ども時代の逆境が、仕事の常習的な欠勤の大部分、医療、救急対応、メンタルヘルス、刑事司法の費用などに影響を与えている。つまり、私たちの心身の健康問題、経済的な問題、社会的な問題の主要な問題もののほとんどに影響する。
  6. 群レベルで考えると、ACEが4つ以上あると、種類のどれかは関係なく、深刻な結果を引き起こす確率が高まる。

2.私たちの課題意識

これまでのACE研究では、家庭での傷つき体験のみに注目されているが、いじめ、不登校などが社会問題化している日本の状況を考えると、学校ACE、すなわち学校における傷つき体験(いじめ被害、教師による不適切な指導など)の影響について、調査研究する必要があるのではないか。

3.研究の方法

Web調査により、20歳~34歳の4000人を対象として、家庭でのACEに加えて、学校ACE、現在のメンタルヘルスや社会参加の状況について調査を行いました。

4.結果と考察

今回の調査は、日本で初めての大規模なACEに関する調査です。

これまでの多くの研究と同じACE尺度を使用したところ、次の図1,2のグラフで示したように、0点(小児期の逆境的体験がないとした者)が64%であり(図1)、小児期逆境体験の中では、両親の別居または離婚が最も多く、続いて心理的虐待となっています(図2)。

アメリカ他、海外での研究では、30%程度であることと比較すると、日本では、ACEが少ない、もしくは感度が鈍い可能性があると考えられます。

ただしこれまで日本で行われたACE研究でもだいたい同じくらいの値が出ていましたので、今回の調査結果は、Webでの実施とはいえ、日本の状況を正しく示している可能性が高いと考えられます。

一方、図3のグラフで示したように、学校ACEは0点が80%程度でした。いじめ被害の状況を考えると、少なすぎる印象があります。

続いて、家庭ACE、学校ACEが成人期のメンタルヘルスや社会適応に与える影響について調べました。
まず家庭ACE、学校ACE共に、これまで行われてきた世界の研究と同じく、成人期のメンタルヘルスのリスクを高める結果が出ました。
社会適応については、実は驚くべき結果が出ていますが、このことは現在、論文にして発表する予定のため、今後、改めて報告したいと思います。