不登校要因調査研究者からのメッセージ

文部科学省委託事業 不登校の要因分析に関する調査研究 に携わった研究グループメンバーより

和久田 学公益社団法人 子どもの発達科学研究所 主席研究員

不登校要因調査を終えて

不登校はご承知のとおり、学校が抱える大きな課題の一つであり、その解決には、不登校の要因や不登校の子供たちの状態などについて明らかにすることが必要です。これまで文部科学省や国立教育政策研究所、その他の多くの研究者が様々な観点で研究を行ってきたわけですが、そうした流れの中に、今回、私たちの研究結果を付け加えさせていただいたことに、大きな手応えを感じています。
今回、報告書で示したことは、私たちが得たデータから分かった一部でしかなく、今後、さらに研究を深めていく必要があります。そして、何よりもこの研究結果を現場に活かし、不登校対策に役立て、何よりも全ての子どもたちの健全な発達を支えるために役立てていくことが重要であり、それこそが、私たちの目的でなければならないと感じています。
今回の調査では、不登校の児童生徒及び保護者から、自由記述欄を通して、様々な意見をいただきました。学校環境のこと、教師の対応のまずさ、学校改革の必要性など、厳しい中にも学校の未来を考える意見が多くありました。そうした意見について、一度は個人を特定できない形で、報告書内で紹介することを考えましたが、倫理的な問題等を踏まえ、今回は見送ることになりました。
ただし、こうした意見は非常に貴重なものだと考えています。既に文部科学省や関係の教育委員会、学校には共有しているものですが、何らかの形でそうした意見を発信し、今後の対策に活かされるようにしたいと考えています。
今回、本研究に貴重なデータを提供してくださった、子供たち、保護者の皆様、現場で奮闘される先生方、教育委員会の皆様、さらにはこの研究を支えてくださった文部科学省、初等中等教育局、児童生徒課の皆様に心から感謝したいと思います。ありがとうございました。

西村 倫子公益社団法人 子どもの発達科学研究所 主任研究員
浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 特任講師

不登校に対する今後の対策への期待

不登校は増加傾向にあると毎年報告されますが、その背景には、時代の変化に伴って「学校に行く」ということに対する考え方の変化もあると思います。コロナ禍における学校の一斉休業やICT環境の整備は、考え方の変化を加速させたかもしれません。しかし、どのような考え方やきっかけ、要因があるにせよ、学校に行かないことによって、非常に多くの子どもが心身の不調や生活リズムの不調をきたしていることが、今回の調査から明らかになったのではないかと思います。学校に行かない選択をした子どもに、たくさんの選択肢が準備されているとは未だ言い難く、苦しい思いをしている子どもやその家族は多いでしょう。「無気力」と言われてしまうと辛いかもしれません。学校教育や政策に携わる多くの人に、不登校の子どもや家族の声を聞いてもらい、対策に活かしてもらいたいです。このような調査の機会を与えてくださった文部科学省、協力してくださった教育委員会や学校、そして声を寄せてくださった児童生徒や保護者さんに心から感謝申し上げます。

谷池 雅子大阪大学連合小児発達学研究科 特任教授(常勤)

文部科学省委託事業:不登校の要因分析に関する調査報告書の結果発表に寄せて

不登校率の増加は少子化が進む日本における喫緊の課題であり、とりわけ、公立教育にとっては屋台を揺るがしかねない大問題です。不登校増加の背景は、一言で言うと、日本が変わってきていることでしょう。核家族化・共働き、ICT革命、個人の多様性の拡大、その一方で従来の地域等集団との関わりの減少等等、子どもを取り巻く環境は昔とは全く異なります。一方で、新しい教育指導要綱、ギガスクール構想への対応等が求められ、学校の負担も増加しています。問題なのは不登校そのものではなくて、子どもの学びの機会を奪うことであると認識も改まりました。すなわち、子どもの登校しづらさの様々な背景を確認し、各々の子どもに合ったテイラーメイドの対応をすることが目標です。抽出される課題は多岐に渡ると予想されますが、優先順位をつけて確実に対策をしていくことが子どものために求められることです。今回の不登校の要因分析に関する調査はその第一歩になると期待されます。

片山 泰一大阪大学大学院・連合小児発達学研究科 教授
公益社団法人 子どもの発達科学研究所 代表理事

本調査は、2015年に始まった文科省委託事業「子どもみんなプロジェクト」における教育現場と研究者の協働の成果の延長にある。今回の調査では、不登校の主たる要因を複数選択可としたことで、無気力不安以外の要因を洗い出したことで、今後の対策に繋がることが期待される。また、教師、児童生徒、保護者の回答の比較により、認識の乖離も浮かび上がった。この結果が示していることは、不登校の要因は複雑であり、毎日見守っている教師ですら、児童生徒・保護者の気持ちや考えを知ることが難しいことを意味しており、今回のような科学的知見を使って、調査・解析を行うことで可視化を進められること、学校に戻ることのみを解決と考えるのではなく、子どもたちの多様な学びの場の必要性を示している点で意義深い。

千住 淳浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター センター長・教授

子どもの心身の健やかな発達は、その後の人生における適応やウェルビーイングを支える、極めて重要な基盤である。学校は子どもにとって家庭と同様極めて長い時間を過ごす、発達の大事な舞台となる場であるため、子どもたちにとって学校が幸せな場所となることは、子どもたちの未来、日本の未来のためにも不可欠であるといえる。今回の調査では、子どもが学校に参加しなくなる、不登校という現象の背景にある要因について、教職員・保護者・子ども本人の3グループを対象として調査している点で極めて新奇であり、重要である。本調査の結果からも明らかなように、子どもから見える学校という世界は、教職員や保護者から見えるものと重なっている点もあり、違っている点もある。今回の調査によって得られた貴重なエビデンスを踏まえ、子どもたち自身にとって学校がより幸せで、より居心地の良いものとなる施策が講じられるのであれば、それは日本の子どもたちの健やかな発達やウェルビーイングを支えるものとなり、将来の日本に資するものになるであろう。

足立 匡基明治学院大学心理学部 准教授

発達障がいをもつ児童生徒であっても、多くの児童生徒は不登校ではない

本調査の目的に掲げられた3つの観点はどれも非常に重要であり、得られた知見はこれからの不登校支援に対し、非常に意義のある示唆をもたらすものである。本調査から得られた重要な知見は数多くあるが、今回は私自身の専門分野を踏まえ、特に重要と思われた点について言及したい。
本調査は「発達障がいをもつ児童生徒であっても、多くの児童生徒は不登校ではない」という事実を示した。本調査において「発達障がいの疑い・診断」のある児童生徒の割合は不登校の児童生徒の約2割を占めており、このような発達障がい特性の高さを不登校の背景要因として指摘した研究はこれまでにも数多くあった。繰り返し指摘されてきており、発達障がい特性を高く有することは、不登校のリスクを高める要因となってしまっていることは確かだろう。一方で、前述のような発達障がい特性を高く有しつつも不登校でない児童生徒の存在を指摘する研究は比較的少なく、このような不登校と発達障がい特性の関連への偏ったメッセージは、発達障がいを「不登校の背景要因の一つ」から「不登校の理由」に押し上げてきてしまったきらいがある。本調査は、発達障がいの特性の高さが決して不登校の決定因ではないことを強く示唆している。
今後のさらなる解析や調査によって、発達障害特性を高く有しつつも学校に通えている児童生徒と登校に困難さを感じる児童生徒の両者を分けるような、より重要な背景要因の存在が明らかとなっていくことが期待される。

髙橋 芳雄東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター 講師

不登校の理解に向けて

本調査の大きな特徴の一つは、不登校の児童生徒に関する情報を児童生徒本人、保護者、教師という三つの視点から取得したことであるといえる。これまでの大規模調査では、三者別々に調査が行われることはあっても、不登校児童生徒に関する複数視点からの接続可能なデータを取得する調査はなかった。そういった点で、本調査のデータは非常に貴重な資料である。
調査は不登校と関連した要因について非常に多くの重要な示唆を与えてくれるが、その重要なことの一つとして、不登校の要因に児童生徒および保護者と教師が捉えている不登校と関連する要因に相違があることが明らかになったことが挙げられる。この相違は何を意味するであろうか。誰かが間違っており、誰かが正解であるということなのであろうか。私は、恐らくそのどちらもが正解であり、ただ、それぞれ立場から「見えやすいもの」と「見えにくい」ものがあるにすぎないと考える。そして、これらの情報を適切に統合し評価することで、多面的かつ重層的な不登校の理解が初めて可能になると考えている。 今後この調査データが有効に活用され、我が国が抱えている児童生徒と学校の問題の解決につながることを期待する。