いじめ加害者への指導、いじめ被害者への支援、いじめ予防にかかわる動画コンテンツの開発~文部科学省委託事業報告~

1. はじめに

2021年度、(公社)子どもの発達科学研究所は、吹田市教育委員会が文部科学省より委託を受けた「いじめ対策・不登校支援等推進事業 『いじめ・不登校等の未然防止に向けた魅力ある学校づくりに関する調査研究』」に関連して、いじめ加害者の指導、いじめ被害者の支援及びいじめ予防教育に使うことができる動画コンテンツの開発を行いました。その内容と今後の可能性について報告します。

2. いじめの現状

学校におけるいじめが社会問題化してから、かなりの時間が経っています。その後、2013年にいじめ防止対策推進法が施行され、文部科学省、自治体・教育委員会、学校、それぞれのレベルにおいて、具体的な取組が行われるようになりました。

しかし、いじめは減りません。文部科学省による「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(図1参照)」によると、児童生徒1000人あたりのいじめの認知件数は令和2年度に減ったように見えていますが、これはコロナ禍の休校により、児童生徒のかかわりの量が減ったことの影響であり、実質的にはまだまだ深刻な状況にあるとされています。

(図1:文部科学省「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」)

図1:文部科学省「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

では、学校現場において、どのようないじめ対策がなされているのでしょうか。

このことについて、全ての調査、研究を俯瞰した報告がないので、私たちの実感ということになりますが、いわゆるエビデンスがあるいじめ予防のプログラムを行っているところはまだまだ少ないと思われます。

そんな中、私たち研究所が開発した「いじめ予防プログラムTRIPLE-CHANGE」に、吹田市教育委員会が全市で取り組んでいることは、評価されるべきことではないかと考えるところです。

3. 加害者指導、被害者支援の問題

私たち研究所は、いじめについて、予防することが何よりも重要だと考えています。なぜならば、いじめが起きた時点で、被害者はもちろん、加害者さえ、発達上、ネガティブな影響を受けることを、多くの研究が明らかにしているからです。

一方、いじめの加害者に対する指導をどうすべきなのか、被害者支援はどうあるべきか、について、学校現場は苦悩しています。

いじめの加害者が悪いのは当然なのですが、ただ叱ればいいというものではなさそうですし、被害者についても、気持ちにより添うだけで良いのかというと、他にも何かすべきことがありそうだからです。

4. いじめ加害者指導といじめ被害者支援の内容

さて、今回の文部科学省委託事業では、この加害者指導、被害者支援がテーマでした。そこで私たち研究所は、吹田市教育委員会と協力して、加害者指導、被害者支援で使える動画コンテンツの開発をすることにしました。
動画コンテンツは、いじめ加害者や被害者に関する世界の研究を参考に、以下の目的に従って開発しました。

いじめ加害者指導

  • シンキングエラー(「自分が楽しければ、問題ない」「自分がやられたことは、相手が傷ついてもやってもいい」などの間違った考え)を指摘し、相手の気持ちに配慮した正しい考えに導くこと。
  • 問題解決のスキル、感情コントロールのスキルを身につけること。

いじめ被害者支援

  • いじめられるのは自分に問題があるからだ、等の考えが間違っていることを指摘して、自己肯定感を安定させること。
  • 友達作りや助けを求めることのスキルを身につけること。

こうしていじめ加害指導、被害者支援の内容を考えると、これらは、全ての子どもにとって重要な指導や支援であることが分かると思います。よって、これらはいじめ加害指導もしくはいじめ被害者支援だけでなく、いじめ予防にも使うことができると考えました。

5. 動画コンテンツを開発したわけ

いじめの予防は、全ての学校、全ての教室で行う必要があります。いじめ加害者への指導、被害者への支援も同様です。私たちが考えている以上に、いじめに関する教育が必要なのです。

そこで、吹田市教育委員会と私たち研究所は、1人1台端末が実現した今の時代に合わせ、動画コンテンツを開発することにしました。動画コンテンツであれば、どの教室、どの児童生徒にも簡単に使って頂くことが可能になるからです。

6. 動画コンテンツのメニュー

表1は、今回開発した動画コンテンツのメニュー一覧です。

タイトルを「ともだちづくり、かかわりづくりプログラム」としたのは、全ての子どもたちが気軽に使えるようにしたいと考えたからです。ここに「いじめ加害者」「いじめ被害者」などの言葉があると、そうでない子どもたちにとって必要のないことだと思われる可能性があります。また、いじめ加害者、被害者の子どもにとっても、「私は、いじめ加害をしたから(被害を受けたから)これをしなければならないんだ」など、この動画コンテンツを使うことそのものによって傷つき体験をさせてしまう可能性があると考えました。

それに、タイトルから分かるとおり、いじめ加害、被害に関係なく、全ての子どもたちに学んで欲しい内容なのです。

(表1:動画コンテンツメニュー一覧)

ともだちづくり、かかわりづくりプログラム

  1. ① いじめって何?
  2. ② みんながやっていることは正しいことなのか
  3. ③ 相手と自分が同じとはかぎらない
  4. ④ やられたらやり返してもいいのか
  5. ⑤ いかりをコントロールしよう
  6. ⑥ こまったら 助けをもとめよう
  7. ⑦ まちがった行動をしてしまったら
  8. ⑧ 自分とちがうやり方や考えを受け入れる
  9. ⑨ だれをさそえばいいのかな
  10. ⑩ さそわれたら さんかしてみよう
  11. ⑪ ちがいがあるのは当たり前
  12. ⑫ 自分の気持ちをつたえよう
  13. ⑬ いじめられる自分が悪いの?
  14. ⑭ ゆうきを出して 助けをもとめよう
  15. ⑮ まちがいをみとめて あやまる
  16. ⑯ 自分はぜったい悪くない
  17. ⑰ やりたくないことはやらなくていいのか
  18. ⑱ まちがった行動をする人は いじめてもいいのか
  19. ⑲ 他の人のしっぱいをせめてもいいのか

7. 動画コンテンツの内容

全ての動画は、以下の流れになっています。

  • (1)視聴:子どもたちの身近な場面
  • (2)視聴:適切な考えと不適切な考えの2つを提示
  • (3)ワーク:自分のものとして考える
  • (4)視聴:理由の説明と行動変容の促進
  • (5)ワーク:自分の行動の変化を考える(約束する)

まず、(1)(2)の部分を視聴します。
その後、(3)自分のものとして考えるワークを行った後、解答編である(4)を視聴し、さらに(5)自分の行動の変化を考える(約束する)をします。
この動画コンテンツの目標は、具体的な子どもの行動の変化です。

8. 動画コンテンツにおける意図

(図2:イモカワユウ氏によるシンプルなイラスト)

イモカワユウ氏によるイラスト1 イモカワユウ氏によるイラスト2 イモカワユウ氏によるイラスト3

上の画は動画コンテンツの一場面です。動画コンテンツにおいて、人物はこのようにシンプルに描かれます。また、子どもの声やナレーションには、コンピュータの合成音声を使っています。

動画コンテンツでは、子どもたちの身近な出来事を取り上げています。ここで扱われる出来事やそこに登場する人物が、子どもたちにとって身近であることが重要ですが、一方で、動画コンテンツの内容が特定の人物や事案に結びつけられ、その結果、この動画コンテンツを視聴した子どもが傷ついたり、友達を傷つけてしまったりすることは絶対に避けなければなりません。そのため、このようにシンプルなイラスト、音声を採用し、特定の人物や事案に結びつけられにくくしています。

ちなみに、(4)の回答部分では、子どもの発達科学研究所の研究員である和久田もしくは大須賀がアバター(イラスト)で登場します。正しいことを伝えるにあたり、私たち研究所の責任を明確にすると共に、あたたかみのある説明をしたいとの意図です。

(図3:研究員アバターの登場シーン例)

イモカワユウ氏によるイラスト1 イモカワユウ氏によるイラスト2 イモカワユウ氏によるイラスト3

9. 動画コンテンツの公開について

今回、開発した動画コンテンツは、文部科学省委託事業での成果であることから、無料で公開しています。
学校現場で使うだけでなく、一般の保護者が、ご自分のお子様のために使うことも可能です。
吹田市立教育センターのホームページよりアクセス可能ですので、子どもたちの未来のために、どうぞお使いください。

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